山並みの稜線を思わせるアースカラーの抽象イメージ。地方創生とジビエツーリズムを支える地域経済の象徴

地域経済と6次産業化

REPORT 06|地方創生・ジビエツーリズム・雇用

ジビエ産業の本質的な価値は、鳥獣被害という地域の「負の資産」を、食・観光・雇用という「正の資産」へ転換する点にあります。本ページでは、地方創生政策におけるジビエの位置付け、捕獲から販売までを地域で完結させる6次産業化のモデル、ジビエツーリズム、雇用と人材育成、副産物活用まで、地域経済への波及効果を多面的に報告します。

地方創生とジビエ産業の位置付け

中山間地域では、鳥獣被害の拡大が営農意欲の低下と耕作放棄を招き、それがさらに獣の生息域を広げるという悪循環が続いてきました。ジビエ産業は、この悪循環を断つ獣害対策と、地域に新たな産品・雇用を生む産業振興を同時に実現する施策として、多くの自治体の総合戦略に組み込まれています。捕獲・処理・販売の各段階で地域内にお金が落ちる構造を持つため、域内経済循環の観点からも評価されています。

先行地域の実績を見ると、処理施設を核に年間数千万円から数億円規模の売上を生み、捕獲奨励金・施設雇用・飲食観光を合わせた経済効果はその数倍に達すると見られています。ジビエ単体の市場規模は大きくなくとも、農業被害の軽減額(守られた農業産出額)まで含めた社会的便益で評価すべき産業である点が、政策的支援が続く根拠となっています。

経済循環の構造を具体的に見ると、ジビエ産業の支出項目は捕獲従事者への奨励金・委託費、処理施設の人件費・光熱費、搬送の燃料費・車両費、販売・観光部門の人件費などで構成され、その多くが地域内の家計と事業者に直接分配されます。地域外から獲得する売上(EC・ふるさと納税・都市部外食への販売)が地域内の所得として循環する比率が高いことは、補助金が域外の資材購入に流出しがちな公共事業と比較したときの、ジビエ産業の特長です。地域金融機関がジビエ関連の設備投資や運転資金を支援する事例も増えており、地域経済のプレイヤーとして認知が定着しつつあります。

6次産業化のモデルと事例類型

ジビエの6次産業化とは、捕獲(1次)×加工(2次)×販売・サービス(3次)を地域主体が一体的に担う取り組みを指します。事例は大きく4つの類型に整理できます。

ジビエ6次産業化の主な事業類型
類型 中核主体 特徴
自治体主導型 市町村・第三セクター 交付金で施設整備。公共性が高く広域連携の核になりやすい
猟師起業型 狩猟者・捕獲事業者 捕獲力が強み。ブランド化とストーリー発信に長ける
農業法人型 農業法人・農協系 自衛的捕獲から発展。農産物と組み合わせた販路を活用
企業参入型 食品・外食・ペットフード企業 加工技術と販路が強み。地域の捕獲体制との連携が前提

いずれの類型でも成功要因は共通しており、第一に安定した捕獲・搬入体制、第二に人向け食肉とペットフード・副産物を組み合わせたフルユース設計、第三に地域外の販路(EC・ふるさと納税・都市部外食)の確保です。行政・猟友会・処理施設・販売者をつなぐコーディネーターの存在が、取り組みの持続性を大きく左右すると報告されています。

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ジビエツーリズムと食体験

ジビエは「その土地でしか味わえない食」としての希少性を持ち、観光コンテンツとの親和性が高い素材です。狩猟体験ツアー、解体見学と食事を組み合わせたプログラム、ジビエフェスやジビエ列車といったイベント型企画、古民家レストランでのジビエコースなど、体験型のジビエツーリズムが各地で商品化されています。インバウンド観光客に対しても、日本の里山文化と一体になった食体験として訴求力があると見られています。

ツーリズムの意義は、宿泊・飲食・土産と波及する消費に加え、都市住民が獣害と狩猟の現場を理解する入口となる点にあります。狩猟体験をきっかけに狩猟免許を取得し、地域おこし協力隊として移住する人材も現れており、ツーリズムは需要創出と担い手確保の両方に効く施策として位置付けられつつあります。

体験型が主流 狩猟・解体・食事の一体プログラム 単価の高い商品設計が可能
秋冬中心 ジビエフェア・イベントの開催期 閑散期観光の底上げに寄与
移住・定住へ波及 地域おこし協力隊の受け皿 担い手確保の入口として機能

ツーリズム運営の実務では、安全管理と法令順守が前提条件となります。狩猟体験は銃猟ではなくわな猟の見学・体験を中心に構成し、猟場への立ち入りや保険加入、悪天候時の代替プログラムまで設計しておく必要があります。解体見学は衛生区域と見学動線を分離し、参加者の年齢に応じた説明内容を準備することが標準的な運用です。旅行商品化にあたっては、旅行業登録を持つ地域の観光事業者やDMOとの連携が現実的であり、ジビエ料理を提供する飲食店・宿泊施設を巻き込んだ地域ぐるみの受け入れ体制が、単発イベントを持続的な観光事業へ育てる条件となります。

雇用創出と人材育成

処理施設1カ所の直接雇用は数名から十数名規模ですが、捕獲・搬送・加工・販売・観光まで含めれば、ジビエ関連の仕事は中山間地域における貴重な通年雇用の受け皿となります。特に、地域おこし協力隊制度を活用して狩猟・解体技術を習得し、任期後に捕獲事業者や処理施設スタッフとして定着するルートは、多くの地域で人材確保の柱になっています。

人材育成の面では、解体処理技術者の研修制度、ジビエ料理の調理講習、捕獲従事者の安全講習などが体系化されつつあり、都道府県や業界団体による資格・研修プログラムの整備が進んでいます。属人的な技能に依存してきた解体技術を標準化し、マニュアルと研修で継承できる形にすることが、産業としての持続性を支える基盤になると考えられます。

教育・食育との連携も、地域におけるジビエの社会的基盤を厚くする取り組みです。学校給食へのジビエ導入は、地域の獣害の実情と命をいただくことの意味を伝える生きた教材となり、地元の処理施設・猟友会と学校をつなぐ交流も生まれています。大学・研究機関との連携では、生息調査や食肉の品質研究に加え、地域の獣害対策を題材にしたフィールド教育が行われ、将来の担い手や関係人口の入口として機能しています。こうした活動は直接の売上には結び付きにくいものの、地域住民の理解と協力という、ジビエ産業が長期的に存立するための無形資本を蓄積する投資と位置付けられます。

副産物の活用と地域ブランド

食肉として利用できる部位は個体の一部にとどまるため、皮革・角・骨・内臓といった副産物の価値化は、1頭あたりの収益と廃棄コストの双方に影響します。鹿革は軽く柔らかい素材特性を持ち、バッグ・手袋・雑貨などのレザープロダクトとして地域ブランド化が進んでいます。角はペット用チュウ(噛むおやつ)やクラフト素材として、骨はだし・ペットフード原料として、活用の幅が広がっています。

こうした副産物活用は、デザイナーや異業種メーカーとの協業によって付加価値が大きく伸びる領域であり、地域の作り手と都市部のブランドをつなぐマッチングが活発化しています。「命を余すことなく使い切る」というエシカルな物語性は、サステナビリティを重視する消費者・企業への訴求力が高く、ジビエ産業全体のブランド価値を底上げする効果を持ちます。販路の詳細は流通と販路を、産業全体の展望は将来展望を参照してください。

地域経済の視点からジビエ産業を総括すると、成功地域に共通するのは、獣害対策・処理加工・販売・観光・教育を別々の事業としてではなく、一つの地域戦略として束ねている点です。捕獲頭数や施設売上といった個別指標ではなく、被害の減少額、域内雇用、関係人口の増加まで含めた総合的な成果で取り組みを評価し、その成果を住民と共有することが、長期的な合意形成を支えています。ジビエは規模の経済が働きにくい産業だからこそ、地域の実情に根ざした設計力が競争力の源泉であり、外部から参入する企業にとっても、地域との丁寧な協業体制の構築が成功の前提条件となります。

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