ニュースの概要
島根県雲南市で、農作物を荒らすシカやイノシシを食材として生かす取り組みが広がっている。中心となるのは食肉加工施設「KANUKA PARK」である。施設は、捕獲現場から車でおよそ30分圏内に入った個体を主に受け入れる。捕獲から解体までの時間を縮めることで、ジビエ特有の臭みや肉の硬さを抑える狙いがある。仕上げは料理人の技術に任せ、ステーキや加工品として提供する。解体と加工の機能を一か所に持つため、精肉の際に出る切り落としなども無駄にしにくい。駆除して終わりにせず、食材として価値を持たせる流れを地域で作ろうとしている。
引用元: 島根・雲南市、食肉加工施設と料理人の技術で害獣肉を地域資源化(Nippon Kaiji News Network)
分析・見解
肉の質を決めるのは、捕獲後の最初の1時間
ジビエの品質は、料理の腕より前に、捕獲後の扱いでほぼ決まる。獣は仕留められたあと、体温が下がりにくい。内臓が残ったままだと、腐敗が早く進み、血も回る。これが臭みの大きな原因になる。さらに、追われて走り回った個体は筋肉に疲れがたまり、肉が硬くなりやすい。
雲南市の施設が約30分圏内という線引きをしたのは、この事情への実務的な答えである。距離を限れば、受け入れられる個体は減る。それでも品質を優先したのは、後工程の手間とばらつきを減らせるからだ。
駆除の延長では、肉は売れ続けない
全国の野生鳥獣による農作物被害額は、近年およそ150億円台で推移している。このうちシカとイノシシが大きな割合を占める。捕獲頭数も年間100万頭規模に達する。しかし、食肉として利用される割合は一割ほどにとどまると言われる。大半は埋設や焼却で処分されている。
理由は単純である。山で獲れた肉は、品質が不揃いで、量も読めない。飲食店から見ると、使いにくい食材なのだ。だから駆除の延長で肉を出しても、継続的な取引にはつながりにくい。
解体から加工まで一か所で行う意味
今回の施設は、解体と加工を同じ場所で行う。これには二つの利点がある。一つは、運搬と保管の時間が減ることだ。もう一つは、部位ごとに最適な使い道を選べることである。ロースやもも肉はステーキに回す。切り落としは、ソーセージやパテなどの加工品に回す。ここで収益の差が出る。
食肉の世界では、一頭を丸ごと売り切れるかどうかが採算を左右する。高く売れる部位だけを切り出しても、残りが捨てられるなら利益は薄い。切り落としまで商品にする設計は、フランスの精肉店が端材をパテやテリーヌにして売る発想に近い。ジビエでは、この端材の出口が特に重要になる。
料理人との連携が価格を決める
同じシカ肉でも、焼き方や熟成の仕方で印象は大きく変わる。料理人が関わると、ジビエを安い代用肉ではなく、地域でしか食べられない料理として売れる。つまり価格の決め手が、肉そのものから料理の体験に移る。
今後の課題は、この仕組みが捕獲数の増減に左右されにくくなるかだ。猟師の高齢化が進めば、30分圏内の捕獲者を確保すること自体が難しくなる。受け入れ範囲を広げるなら、冷却搬送の工夫が必要になる。
ビジネスへの影響
品質の線引きが、そのまま事業の強みになる
この事例の要点は、あえて受け入れ範囲を絞った点にある。数を集めるより、質をそろえる道を選んだのだ。食品関連の事業者にとって、品質基準を先に決め、それに合う原料だけを扱う方針は応用しやすい。たとえば水産や果樹の加工でも、収穫から処理までの時間を数値で決めると、顧客への説明がしやすくなる。基準は制約に見えて、実際は他社との違いを示す根拠になる。
自治体と飲食店が組むときの確認事項
地域で同様の事業を考える場合は、三点を先に確認したい。第一に、捕獲者の数と年齢構成である。供給が細れば設備が遊ぶ。第二に、端材と副産物の出口を、稼働前に決めておくこと。ペットフードや加工食品の委託先が候補になる。第三に、料理人や飲食店の購入意向を、事前に数量で確認することだ。
設備投資は、衛生管理の基準を満たすために大きくなりやすい。補助金頼みにせず、一頭あたりの粗利を試算してから判断したい。害獣対策の予算と、食肉の売上を別の財布で見る考え方も、資金計画を安定させる。