ニュースの概要

静岡市駿河区の「あい・ハート薬局中原店」では、シカ肉を使ったハンバーグやソーセージを店頭で販売している。仕掛けたのは、薬を出すだけでなく、住民が相談や雑談のために気軽に立ち寄れる場所をつくりたいと考えたオーナー薬剤師だ。ジビエ食材のブランド「オクシズワイルド」を立ち上げ、クラウドファンディングで資金を集めて商品化した。仕入れから製造までを静岡県内で完結させている点も特徴である。背景には、奥静岡でシカによる農作物被害が深刻化し、捕獲の依頼が絶えない一方で、猟師の収入をどう確保するかが課題になっている事情がある。

引用元: 薬局でシカ肉を販売、獣害対策と地域活性化を目指す(Kyodo News / Yahoo!ニュース)

分析・見解

薬局という入口が、ジビエの最大の弱点を補う

ジビエの弱点は、味より先に「どこで買えばよいか分からない」ことにある。専門の精肉店や道の駅、通販を使うのは、もともと関心の高い人に限られる。薬局は事情が違う。持病のある人、子育て中の親、高齢の住民が、月に何度も自然に訪れる。そこに商品が並べば、買う目的で来ていない人の目にも触れる。調剤薬局は食品売り場の価格競争から離れているため、安さで比べられにくい点も有利だ。

さらに、薬剤師が健康相談の流れで商品を説明できる。シカ肉は高たんぱくで脂肪が少なく、鉄分も多いとされる。栄養の話から入れる売り方は、精肉店にはない強みだ。

捕獲しても売れない、猟師の収入という行き詰まり

奥静岡のような山間部では、農作物や植林への被害が続き、捕獲の依頼が絶えない。ところが、捕獲が増えても猟師の収入は増えにくい。駆除には自治体の報奨金が出ることが多いが、わなの見回り、運搬、解体の手間を考えると採算は厳しい。全国でも、捕獲したシカのうち食肉に回るのは1割に届かないとされ、大半は埋められるか焼却される。

肉に値段がつく出口があるかどうかは、捕獲の担い手を残せるかに直結する。担い手が減れば被害は広がる。獣害対策は、実は販売の問題でもある。

県内完結の製造が品質と物語を同時に支える

仕入れから製造まで県内で完結する形は、輸送が短く、鮮度と衛生を管理しやすい。誰が獲り、どこで加工したかも説明できる。ジビエは個体差が大きく、血抜きの速さで味が決まる。顔の見える距離で作る利点は大きい。ブランド名の「オクシズ」は奥静岡の呼び名で、地名を前面に出すことで産地への愛着を育てる狙いも読み取れる。

クラウドファンディング(=インターネットで支援者から資金を募る仕組み)の活用も見逃せない。先に支持者を集めれば、少量生産でも赤字を抑えやすい。買い手が最初から応援者になる点も強い。ハンバーグやソーセージという形も賢い。挽いて味を付ければ、硬い部位や形の不ぞろいな肉も使える。使える肉の割合(=歩留まり)が上がり、猟師から買い取れる量も増える。

広がるかどうかは、継続的な需要づくりにかかる

話題性で一度売れても、繰り返し買われなければ猟師の収入は安定しない。北海道では、エゾシカ肉の処理施設を認証する制度を設け、品質への信頼を積み上げてきた。需要を安定させるには、給食や飲食店など、まとまった量を買う出口が欠かせない。

薬局の店頭だけで消費できる頭数は、正直なところ多くない。価値はむしろ、獣害の現実を知る人を地域に増やし、関心を絶やさない「説明の場」になることにある。売り場というより、語り手を得た点がこの取り組みの本質だと考える。

ビジネスへの影響

通院客が通う店は、地域産品の静かな販路になる

薬局に限らず、美容室、書店、学習塾、診療所の待合など、決まった人が定期的に通う場所は小さな販路になる。狙うのは大きな売上ではない。来店理由とは別の会話のきっかけをつくることだ。ただし条件はある。冷凍や冷蔵の設備、食品の販売許可、表示ルールの順守が前提になる。医療の信用を持つ店ほど、食品にも高い品質を期待される。仕入れ先の衛生管理は、必ず自分の目で確かめたい。食べ方を伝える掲示や試食の工夫も欠かせない。

猟師の収入を守るために、値段と量を先に決める

自治体や食品事業者が同様の事業を考えるなら、確認点は三つある。一つ目は安定供給だ。捕獲は季節や天候で増減するため、冷凍在庫の持ち方を先に決める。二つ目は価格の中身だ。猟師からの買い取り価格、解体と加工の費用、小売価格を分けて書き出し、誰の取り分が薄いかを見える化する。三つ目は出口の分散だ。店頭販売だけでなく、給食、飲食店、ふるさと納税の返礼品などに広げれば、需要の波が小さくなる。

企業は社員食堂や贈答品での小さな採用から始められる

一般企業にとっても、取り入れやすい入口がある。社員食堂の週替わりメニュー、取引先への贈答品、地域貢献をうたう商品企画などだ。いきなり大量に買う必要はない。まず月に数十食から始め、反応を見て量を決めればよい。クラウドファンディングは資金集めだけでなく、どのくらい買う人がいるかを事前に測る調査としても使える。獣害対策を寄付ではなく購買で支える形は、続けやすく、説明もしやすい。従業員に地域の課題を伝える教材にもなる。

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