ニュースの概要
農林水産省の令和5年度調査を基にした報道によると、全国の食肉処理施設が販売したイノシシやシカなどの鳥獣肉は約146万6,215キログラムだった。そのうち学校給食向けは約1万4,294キログラムで、割合にして約1%にとどまる。理由として挙げられているのは、家畜肉と違って捕獲の頭数や時期を計画的に調整できない点である。食品衛生上、止め刺しの後は速やかに処理を始める必要があり、決まった日に決まった量を求める学校給食とは、そもそも相性がよくない。数字だけを見ると低調だが、背景には食肉流通の仕組みの違いがある。本稿ではこの1%の意味を読み解く。
引用元: ジビエの学校給食利用は販売量の約1%にとどまる(KARIUDO)
分析・見解
1%という数字が示すのは需要不足ではなく供給の性質
給食向けが約1%と聞くと、学校側の関心が低いのではと考えがちである。だが、この数字の本質は別のところにある。ジビエは「ある日まとまって獲れ、数日のうちに処理しなければならない」肉だ。野菜でいえば、収穫日を選べない野生の山菜に近い。一方、給食は年間の献立を前もって組み、決まった日に決まった量を使う世界である。両者は時間の流れ方がまるで違う。需要の有無より先に、供給の性質がぶつかっているのだ。
止め刺しから処理までの時間が、納入日を縛る
捕獲した野生動物は、止め刺し(=とどめを刺して命を絶つこと)の後、速やかに食肉処理施設へ運び、解体を始める必要がある。時間がたつほど肉質も衛生面も不利になるからだ。つまり「来週の火曜に200食分」と決められても、その日に合わせて獲ることはできない。罠にかかる数は、天候や季節、山の実りの豊凶に左右される。猟期(=猟が認められる期間)の外は有害鳥獣捕獲(=農作物被害を防ぐための捕獲)が中心になり、頭数のぶれはさらに大きくなる。
給食は一度の大量需要、ジビエは小刻みな供給
もう一つの壁は量の単位である。学校給食センターは、一回で数百から数千食を作る。肉を一食50グラムとしても、千食なら50キログラムが必要だ。ところが小規模な処理施設では、一日に扱える頭数が数頭にとどまることも珍しくない。シカ一頭から取れる食べられる部分は体重の三割前後にすぎず、部位によって硬さも違う。品質を揃えにくいことが、調理現場の負担になる。学校には、鉛弾(=猟銃の弾に使われる鉛)の残留への不安に応える説明責任もあり、慎重になりやすい。さらに給食は一食の単価が低く、輸入牛肉や国産豚肉と価格で競りにくい。
解決の鍵は冷凍在庫と複数施設の束ね方にある
では打ち手はないのか。考えられるのは、獲れた時に作り、使う時に出す仕組みである。急速冷凍して在庫を持てば、処理日と納入日を切り離せる。ミンチやソーセージのように、部位の差を均して使える加工品にするのも有効だ。加えて、複数の施設の在庫を一つの窓口で束ねれば、数百食規模の注文にも応えやすくなる。ただし、冷凍設備と窓口の運営には投資が必要で、その費用を誰が持つかは決まっていない。給食の利用率を直接上げようとするより、供給の波をならす機能を整えることが先だと考える。
欧州の一部では、狩猟肉は秋冬の季節食材として扱われ、通年供給を前提にしない文化がある。日本でも、「冬の特別献立」として位置づけ直せば、不足は欠点ではなく特色にできる。
ビジネスへの影響
処理施設は「給食専用の枠」より、冷凍在庫の設計から始める
食肉処理施設の経営者にとって、給食は売上の柱というより、信用を高める販路と捉えるのが現実的である。まず取り組むべきは、獲れた時期に関係なく出荷できる冷凍在庫の設計だ。例えば、月に一度、全体の処理量の一割を給食向けに取り置くと決めれば、納入日が来ても慌てずに済む。目安として、一回の納入が数十キログラム規模なら、小さな施設でも対応しやすい。ミンチ、角切り、スライスの三規格に絞れば、手間も抑えられる。同時に、鉛弾を避けた処理手順や検査記録を整え、栄養士に見せられる資料にしておくと、採用の判断が早まる。
自治体と学校は、毎週ではなく「ジビエの日」から試す
自治体や教育委員会は、毎週の提供を目標にすると失敗しやすい。年に二、三回の「ジビエの日」を決め、その日に向けて数か月前から在庫を積み上げる方が現実的だ。献立を早めに確定する学校の慣行は、むしろ計画的な備蓄に向いている。また、単に肉を出すだけでなく、獣害(=野生動物による農作物被害)や命をいただく意味を学ぶ授業と組み合わせれば、価格の高さにも保護者の理解を得やすい。差額を補助するかどうかは、獣害対策予算と食育予算のどちらで持つかを、自治体内で先に整理しておきたい。
外食・食品企業は「通年メニュー」の発想を捨てると組みやすい
給食でつまずく構造は、外食や食品メーカーにも共通する。通年で同じ量を求めると、結局は輸入肉との競争になる。獲れる時期を前面に出した季節限定の商品や、予約を先に集めてから処理量を決める受注型の仕組みなら、不確実さを価値に変えられる。まず試すなら、冬の限定メニューを一品だけ作り、三か月の販売実績から必要な在庫量を逆算するとよい。給食向けの実績は、安全管理を示す材料として、取引先への説明にも使える。