ニュースの概要
毎日新聞の連載「クマ禍を生きる」は、クマ被害が続くなかで広がるジビエの個人間売買を取り上げている。駆除されたクマの肉が、個人同士のやり取りで売り買いされる例があり、狩猟のプロや食に詳しい識者でさえ「怖くて買えない」と語るという。処理や検査を経た肉かどうか、販売の許可があるかどうかが、買い手にはほとんど見えないためだ。被害対策として捕獲が進むほど、この問題は各地で表に出てきやすい。駆除が増えれば肉も増える。しかし正規の受け皿が細ければ、グレーな取引が生まれる。本稿は記事の見出しと要約をもとに、この問題を流通の仕組みの側から読み解く。
引用元: クマ禍を生きる:プロも識者も「怖くて買えない」 ジビエのグレーな個人間売買(毎日新聞)
分析・見解
駆除は増えても、肉の行き場が細いままである
クマの捕獲数は近年、過去に例のない水準で推移している。駆除された個体の多くは、焼却や埋設で処分される。肉として使われるのは、ごく一部にすぎない。
捕獲した側には、命を無駄にしたくないという思いがある。しかし山間部では、解体できる施設まで車で数時間かかることも珍しくない。気温が高い時期は搬入までに肉が傷み、断念する例も多い。その隙間に、知人や購入希望者へ直接譲る動きが入り込む。需要が先に生まれたのではなく、受け皿の細さが生んだ現象だと見るべきだ。
許可、寄生虫、履歴の三点で確認ができない
個人間売買が「怖い」と言われる理由は三つある。
一つ目は許可だ。野生鳥獣の肉を売るには、食品衛生法に基づく食肉処理業などの許可が要る。自分で食べる分には問題がなくても、代金を受け取れば扱いが変わる。二つ目は寄生虫である。クマ肉には旋毛虫(トリヒナ)が潜むことがあり、中心まで十分に加熱しないと感染の恐れがある。三つ目は履歴の欠落だ。いつ、どこで、どう仕留め、どう冷やしたかが分からない。血抜きの遅れによる傷みは、見た目では判別できない。
牛肉並みの追跡の仕組みが、ジビエにはまだない
牛肉は個体識別番号で、生産者までさかのぼれる。ジビエには、全国共通のそうした仕組みがない。国産ジビエ認証制度のように、処理施設の衛生管理を第三者が確認する枠組みはあるが、認証を受けた施設は限られる。
さらにクマは、シカやイノシシより扱う施設が少ない。経験が積み上がりにくく、検査の標準も育ちにくい。ヨーロッパには、講習を受けた猟師が現場で一次検査をして記録を残し、流通に乗せる国がある。日本でも、同じ発想が参考になる。プロが買わないのは臆病だからではない。確認できない肉は、自分の店の信用を賭けるには重すぎるのである。
取り締まりより先に、合法の出口を太くする
取り締まりだけでは、取引は見えない場所へ移るだけだ。必要なのは、合法の出口を現実的な距離と費用で用意することである。
候補は、複数の猟師が共同で使う処理拠点、解体設備を積んだ移動車、検査結果を一目で示す表示の統一などだ。自治体が駆除の報償金と同じ枠で搬送費を支えれば、持ち込む動機も生まれる。駆除個体を資源に変える回路ができれば、猟師の負担も廃棄の費用も下がる。個人間の闇市は、その回路が整うまでの代用品にすぎない。
ビジネスへの影響
仕入れでは個人から買わない線引きを書面にする
飲食店や小売店は、個人から買わないという線引きを文書にして残すことが第一歩になる。仕入れ先には、食肉処理業の許可番号、処理日、捕獲地、加熱用か生食可かの区分を書面で求める。クマ肉は加熱が必須の食材であり、生食やレアでの提供は避けるべきだ。万一の健康被害が出たとき、仕入れの記録が店を守る。
メニューに産地と処理施設名を載せれば、安心そのものを価値として売れる。「怖くて買えない」という声の裏返しは、「確かなものなら買いたい」という需要である。
処理も販路も、地域で組んで使い切る設計にする
処理施設を一事業者が単独で持つのは重い。近隣の猟友会、宿泊施設、道の駅が組み、搬入ルートと買い取り価格を先に決めておく方法がある。冷蔵設備の共同利用や、検査費用の分担も有効だ。自治体は、駆除の報償金とは別に、搬送費や検査費への補助を検討したい。
販路は食用に限らない。加工品やペットフードなど、人の生食を前提としない用途にも広げられる。肉を使い切る設計ができれば、駆除にかかる費用の見合いは上がる。
注意の発信が、地域のジビエの信用を支える
個人間で手に入れた肉を食べる人は、すでに一定数いるはずだ。中心部まで十分に加熱すること、由来の分からない肉は食べないこと。この二点を事業者や自治体が先に発信すれば、地域のジビエ全体への信頼につながる。