ニュースの概要
2026年7月第4週の日替りランチ放浪記は、三つの対照的な食体験をレポートしている。一つ目は奈良県天川村でのジビエ食べ歩き。山間部の狩猟文化を現代の食卓にどう載せるかという試みだ。二つ目は四国物産展で提供されたえびすり身天うどん。四国の海産物を練り上げ技術で昇華させた一品である。三つ目は大阪・堂島で供された王道トリプルカレー。三種のスパイスと異なるソースを層状に重ねた料理で、都市部のカレー激戦区における進化形を示している。これら三つのエピソードは、地方と都市、伝統と革新、素材と加工といった多層のテーマを内包している。単なる食事記録を超え、2026年の日本食を取り巻く構造的な変化を映し出す鏡とも言える内容だ。
引用元: 天川村ジビエ食べ歩き、四国物産展でえびすり身天うどん、堂島で王道トリプルカレーほか【日替りランチ放浪記2026年7月第4週】(dメニューニュース)
分析・見解
天川村のジビエ食べ歩きは、単なる田舎体験ではない。日本の狩猟人口は減少の一途をたどっており、2025年時点で約170万人とピーク時の三分の一以下に落ち込んでいる。しかし逆説的なのが、ジビエ消費の拡大だ。環境省の調査によれば、有害鳥獣捕獲数は年間約70万頭以上にのぼり、その有効活用が政策課題となっている。天川村の取り組みが示しているのは、捕獲から提供までのバリューチェーンを地域内で完結させるモデルの構築である。従来のジビエは臭みや硬さが課題とされたが、熟成技術の導入や低温調理の普及により、2026年現在ではレストランレベルの品質管理が可能になっている。特筆すべきは、食べ歩き形式を採用している点だ。一皿で完結するコース料理と異なり、複数の店を巡り少量ずつ楽しむスタイルは、訪れる客の滞在時間を延ばし、地域経済への波及効果を高める。これはマイクロツーリズムと美食体験の融合と言える。
四国物産展のえびすり身天うどんは、練り物産業の技術進化を象徴している。四国、特に愛媛県や香川県はかまぼこ製造の歴史が深く、その技術の蓄積がえびすり身天という新しい形態を生んだ。従来のすり身は白身魚が中心だったが、えびを主原料にすることで風味と食感を根本から変えている。重要な視点は、これを都市部の物産展で提供している点だ。地方の食材を都市に運ぶ際、生鮮品は衛生管理とコストの壁に直面する。しかし加工品、あるいは加熱調理済みメニューとして提供すれば、この障壁を大幅に下げられる。えびすり身天はその典型であり、四国の海産物を最も効率的に都市消費者に届ける手段として機能している。うどんとの組み合わせも、香川県のブランドアイデンティティを活用した戦略的選択だ。
堂島の王道トリプルカレーは、カレー市場の成熟と細分化を示している。2026年のカレー市場は約8,000億円規模に達し、レトルトから専門店まで多様なレイヤーが形成されている。トリプルカレーが登場した背景には、消費者の体験価値への支払い意欲がある。単一のカレーでは飽き足らず、三つの異なるスパイスプロファイルやソース構成を求める層が確実に存在する。堂島というエリア自体が、カフェやスイーツで知られるブランディングされたエリアであり、そこでカレーを提供することのシナジーも無視できない。注目すべきは王道という表現が使われている点だ。斬新さや奇抜さを追求するのではなく、基本的なカレーの構成要素を極める方向性にシフトしている。これは飽和市場における生存戦略として理にかなっている。
三つの事例に共通するのは、既存のリソースを新しい組み合わせで価値転換している点だ。天川村は狩猟文化を体験型ガストロノミーツーリズムに転換し、四国は練り物技術とブランドアイデンティティを都市部物産展で活用し、堂島はカレーの伝統的構成を極限まで洗練させている。いずれもゼロから何かを生み出しているのではなく、すでに存在する要素の組み替えによって競争優位を築いている。このパターンは、日本の地方創生や中小企業戦略において最も再現性が高いアプローチである。
ビジネスへの影響
これらの事例から、事業者が具体的に学ぶべきポイントは三つある。第一に、地方素材の加工による価値転換戦略の重要性だ。天川村のジビエは、生肉のまま都市部に出荷すれば衛生規格の壁と輸送コストに阻まれる。しかし地元で下処理、熟成、調理まで行い、食べ歩きという体験型商品に仕立てることで、観光収入としての収益チャネルを開拓している。同様のアプローチは全国の農林水産物に応用可能だ。例えば長野県の野生きのこを、乾燥だけでなく地元での調理体験付きパッケージ商品として展開する、あるいは北海道の海産物を浜茹で加工してから物産展で提供する、といったケースが考えられる。
第二に、物産展の活用は単なる販売チャネルではないという認識だ。四国物産展でえびすり身天うどんを提供しているということは、四国に興味を持つ都市消費者に直接サンプル体験をさせ、フィードバックを得る機会でもある。これはマーケティングリサーチの場としての価値を持つ。実際の購入データだけでなく、味の反応、価格受容性、パッケージの印象など、定性的なデータが大量に得られる。中小企業にとって、このリアルな消費者接点は極めて貴重なリソースだ。
第三に、堂島のトリプルカレーが示す「王道の極み」路線は、競争が激しい都市部の飲食業界において特に有効なポジションニングである。新規性を次々と打ち出すカフェやコンセプトレストランと異なり、基本の完成度を高める戦略は、リピート率と客単価の両方を押し上げる。カレーのような国民食において、消費者が求めるのは意外性よりも納得感と満足度だ。トリプルという構成にこだわることで、一品では得られない多層の風味体験を提供し、それが口コミやSNS拡散につながる。飲食店経営者は、自メニューの基本要素を再定義し、三つの異なる質感や味覚レイヤーを意識的に組み込むことで、差別化を図れる。
意思決定レベルでは、これらの事例が示す「既存リソースの再組み合わせ」という発想を、自社の事業ポートフォリオに適用する検討が必要だ。抱えている技術、人材、資産の組み合わせを変えるだけで、新たな収益機会が生まれる可能性は十分にある。